提唱者メッセージ

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私が施設で勤務するようになり、まず気付いたこと――、それは、施設に入所されている方々は、一人ひとりが、それぞれの歩いてきた人生や経験に裏打ちされたさまざまな個性を持った「一個人」であることでした。
そして、食べ残しが多い人、まったく口を開けてくれようともしない人、顔色が悪い人、怒ってばかりいる人…そこにはやはりそれぞれの理由があったのです。
なんとか安全で美味しく、喜んで食べてくれるような食事を作りたい。他の職種の方々の助言を受けながら、試行錯誤を繰り返した毎日の連続。ソフト食を食べて、すっかり元気になられたおばあちゃんの笑顔がいまでも忘れられません。
「黒田留美子式高齢者ソフト食」は、スタッフはもとより施設運営に携わるすべての方々に支えられ、開発することができました。さらに、さまざまな方々に励まされ、支えられ、皆様のおかげをもちまして、今日に至っております。

現在の日本は、平均寿命は世界でもトップクラスであり、高齢化のスピードも速く、総務省が発表した2013年9月15日時点の推計人口によると、65歳以上の人口は3186万人となり、総人口に占める割合は25.0%と過去最高を更新、人口の4人に1人が高齢者という超高齢化社会を迎えています。
このような中、人生の最期まで、安全で美味しい食事をどうすれば提供できるのでしょうか。私は、今後とも「黒田留美子式高齢者ソフト食」を通じて、高齢者に対する「食」に貢献してまいりたいと考えています。「黒田留美子式高齢者ソフト食」が普段家庭の食卓に並び、家族みんなで食を楽しむ光景が来ると信じて。

農学博士・管理栄養士
黒田 留美子

黒田留美子式高齢者ソフト食®開発の経緯

pht-advocate平成6年から、介護老人保険施設「ひむか苑(当時・潤和館)に勤務。
その頃、食材を刻んで提供する「きざみ食」を中心とする「食事」を提供することが常識であった。
しかし、実際に、そのような食事を提供し、それを食する入所する高齢者の体の状態や表情、反応のほか、食べ残しの量等をみて、疑問を感じるように。
高齢者の「食」と向き合い、介護食をもっと美味しく、見た目もよく、安全に提供するためにはどうすればよいかを真剣に考えるようになった。
老人介護食の先進的取組をしていた静岡県の聖隷三方原病院に勉強に行ったことを契機に、独自の介護食開発を開始。
油や卵、ゼラチンなどのつなぎを使い、下ごしらえの工夫や、蒸し器や圧力鍋を取り入れて調理することで、見た目は普通の食事と同じだが、口のなかでまとまりやすく、飲み込みやすいという特徴のある「黒田留美子式高齢者ソフト食」を考案。
57歳のときには、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の効果をより科学的に証明するため、宮崎大学大学院 農学工学総合研究科に入学し、副学長の指導のもと、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の統計解析を行った結果、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の軟らかさ、まとまりやすさ、凝集性、粘り具合、付着性を数値化し、その特性を明らかにすることに成功した。

黒田留美子プロフィール

農学博士・管理栄養士
高齢者ソフト食研究会会長
NPO法人シルバー総合研究所理事
日本摂食・嚥下リハビリテーション学術学会評議委員

略歴

  宮崎県新富町にて3人姉妹の長女として生誕。高校時代まで新富町で過ごす。
昭和45年3月 別府女子短期大学食物課卒業。
昭和45年4月 社会福祉法人宮崎県社会事業団県立ひまわり学園(知的障害児施設)に就職、その後いったん家庭に入る。
  河野整形外科に勤務後、宮崎県栄養士会事務局勤務。栄養士会理事を4期、幹事を2期務める。
平成6年4月 介護老人保健施設 ひむか苑栄養管理室に栄養管理室長として勤務。
平成8年1月 ペパーミントの会(栄養士の勉強会)会長就任。
平成15年4月 NPO法人シルバー総合研究所理事就任。
平成16年9月 日本摂食・嚥下リハビリテーション学術学会評議委員就任。
  「黒田留美子式/高齢者ソフト食」で商標登録を取得。
平成17年4月 財団法人潤和リハビリテーション振興財団 潤和リハビリテーション診療研究所・主任研究員として勤務。
  勤務を続けながら、社会人として宮崎大学に入学。
平成22年3月 宮崎大学・大学院農学工学総合研究科修了。農学博士を取得。
平成25年2月 高齢者ソフト食研究会会長就任。
平成26年8月 「咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品」で特許取得。

受賞歴

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平成15年2月 第1回杉田玄白賞受賞
平成18年10月 宮崎日日新聞賞社会賞受賞
平成26年11月 農林水産省食料産業局長感謝状

社会的活動

考案した「黒田留美子式高齢者ソフト食」を広く普及するため、平成13年に、「高齢者ソフト食 -安全でおいしい介護食レシピ」を出版。同年には、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会等で成果を発表。
取組が評価され、平成15年に福井県小浜市で第1回杉田玄白賞※1を、平成18年には宮崎日日新聞社会賞※2を受賞した。

平成21年10月に、財団法人 潤和リハビリテーション振興財団を退職後も、現在まで潤和リハビリテーション診療研究所 客員研究員として、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の開発、職員の栄養管理指導および摂食嚥下指導に従事し、地域の医療と福祉の向上に寄与。

平成25年2月には、介護食品メーカーや栄養士、看護師とともに「高齢者ソフト食研究会」を立ち上げ、自ら会長となって、会員向けに新メニューの紹介や、実習、勉強会を主宰。

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最近では、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の普及啓発に賛同する企業と提携し、年間60回以上の調理実習や講演会を全国各地で開催。これまで1万人以上の前で実技を披露し、現在も継続して年60回以上の講演やセミナーを行っている。

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また、介護食品の製造・販売に参入する企業に対し、監修の立場から、「黒田留美子式高齢者ソフト食」開発の支援を行い、最近では地元の畜産農家と共同で高齢者向けのメンチカツ「なめらかつるるんメンチカツ」(販売中、特許出願中)を開発し、介護食品(スマイルケア食)コンクールにおいては、農林水産省職業産業局長賞を受賞するなど、6次産業化としても注目を集めている。

一方、高校生が全国高等学校家庭クラブ全国大会で発表する高齢者ソフト食の取組の支援なども行っており、全国を飛び回る日々を過ごしている。

このように、「黒田留美子式高齢者ソフト食」の考案、普及活動を通じて、介護食品に関する研究推進と介護食品産業の普及・推進に努めている。
なお、「黒田留美子式高齢者ソフト食」は宮崎県のみならず、東京や富山、岡山、福岡、群馬など全国の病院・施設でも採用されつつある。

※1 杉田玄白賞…食と医療に関する進歩的な取組・研究を行い、実績をあげている方などを対象とした賞
※2 宮崎日日新聞社会賞…宮崎県の各分野で功績を挙げ、県民の幸福や県勢の発展に寄与した方が対象